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タイトル太田牛一の著述姿勢についての論文
記事No: 155 [関連記事]
投稿日: 2003/01/15(Wed) 12:20
投稿者T.m

太田牛一の著述姿勢を窺わせるに参考となる論文として、岩澤愿彦氏の
〔 『信長公記』の作者太田牛一 の世界 〕の一読をお勧めします。

そのなかで注目されるのが、『豊國大明神臨時御祭禮記録』と
『豊國大明神臨時御祭禮日記』との関係についての考察であり、
前者は牛一 の直筆本にして「さうあん 太田和泉守作之」の記入がある
ことから、後者の草案本であることが明らかです。

岩澤氏は、その両者の間の相違点を次の4点に集約されています。
  1.後者は前者の文章を推敲して潤色を強めている。
  2.後者は前者の文章 の記事に加除、訂正を加えている。
  3.後者には、前者には使用しなかった材料を用いて補入した部分がある。
  4.牛一自身の観察、伝聞に基づく記事への訂正は少ない。
1.〜3.の点については、まさに『安土日記』と『信長(公)記』の関係、
ひいては安土城天主にかんする「貞勝の記録」と「安土(山)御天主之次第」
との関係にも言えるでしょう。

残る4.については微妙なところであり、「安土(山)御天主之次第」に
おいて「貞勝の記録」に対する加除や変更が顕著である点、一考を要するかと
思います。やはり牛一には、それが自身の「記録」であると思わせたかったとの
意図が有ったのではないでしょうか。

さらに注目すべきは3.に対する岩澤氏の指摘であり、「材料」には不正確な
ものも少なく無いということであり、牛一の情報収集能力にも限界が有った
ということです。そのことは、「安土(山)御天主之次第」の信憑性をも左右する
ことであると思います。
特に、特別な空間であった塔屋部(6.5階部分)に関する追加情報は、甚だ疑問
ではないでしょうか。

ましてや「安土(山)御天主之次第」で本文化されていない『安土日記』行間への
追記は、本文化されていない理由とともにその時期にも疑問があり、『天守指図』
の信憑性 を考証するうえでは、前田家における両者の出現の時期がほぼ重なっている
ことで、現状においては、「身内によるアリバイ証言」の粋を脱し得ないと思います。
せめて、『安土日記』の原本が別の場所から、あるいは同じ追記を持つ
『信長(公)記』が発見されれば別なのですが・・・・・・・


タイトルRe: 太田牛一の著述姿勢についての論文
記事No: 156 [関連記事]
投稿日: 2003/01/15(Wed) 18:01
投稿者

論文の紹介、ありがとうございます。牛一の記述に対する姿勢と、作成
された文章の一般的傾向がよく窺える内容のようですね。早速掲載誌を
確認して取り寄せてみることにいたします。

> せめて、『安土日記』の原本が別の場所から、あるいは同じ追記を持つ
> 『信長(公)記』が発見されれば別なのですが・・・・・・・

確かに「安土日記」が写本という事実は、悩ましい問題ではありますね。
ただ、行間補記について写本の筆者と同筆みたいですから、前田家の
所蔵に帰してから手が加えられたという可能性は低そうで、

○拝見記の原史料の時点で、筆者或いは第三者により付記されたもの
 がその形態を保持しつつ転写された。
○拝見記を入手した牛一が手を加えた。加えた内容についても、補記の
 時点では一定の事実を反映していたが以降の牛一の試行錯誤の結果
 としてV類本等の記述が確定、とか、補記の記事は適当で、追加情報
 で 後になる程精度が増した、とか、片方、或いは双方とも単なる
 牛一の想像に過ぎないとか、いろいろな場合が考えられる。
○前二者より可能性は低そうだが、写本を作成した人物が手を加えた。

と様々なケースが考えられますけども、いずれにしても写本の成立
時期を考えればかなり早い時期に付されたものではあるようです。

あと、ご紹介いただいた佐々木譲さんの「天下城」、第1回から
読んでます。穴太を中心に据えたストーリーの展開は新鮮で、
ほどよく著名人物や事件が主人公にからんでくるあたり、何とも
くすぐられるものがあります。安土城天主について造詣の深い
佐々木氏が、文学者という立場と、文学という手法ででその成立を
どのように解き明かしていくのか、とてもドキドキしますね。


タイトル『史叢』32号(1983)所載
記事No: 157 [関連記事]
投稿日: 2003/01/15(Wed) 23:42
投稿者淳也

T.mさん紹介の、 岩澤愿彦 著、
「『信長公記』の作者太田牛一の世界」の論文は、

日本大学史学会の発行する雑誌、
『史叢』の32号(1983)所載のようです。


> せめて、『安土日記』の原本が別の場所から、あるいは同じ追記を持つ
> 『信長(公)記』が発見されれば別なのですが・・・・・・・

現状では、信憑性に関して、決定的な証拠がある訳ではないので、
私は、
誤解や勘違いはあるものの、全く根拠の無いデーターは、書かれていない、
と言う前提で、復元案を作っています。


佐々木譲さんの「天下城」、(週間新潮で連載中)
図書館で、時々読んでいますが、
> ほどよく著名人物や事件が主人公にからんでくるあたり、
連載小説のこの手法は、1話〜読む分には面白いのですが、
単行本になると、すこし煩い感じになりそうですよね。


タイトルRe: 太田牛一の著述姿勢についての論文
記事No: 158 [関連記事]
投稿日: 2003/01/16(Thu) 11:51
投稿者T.m

> 確かに「安土日記」が写本という事実は、悩ましい問題ではありますね。
> ただ、行間補記について写本の筆者と同筆みたいですから、前田家の
> 所蔵に帰してから手が加えられたという可能性は低そうで、
>
> ○拝見記の原史料の時点で、筆者或いは第三者により付記されたもの
>  がその形態を保持しつつ転写された。
とすると、「安土(山)御天主之次第」への改稿の際、牛一はそれを
採用しなかった、という事になりますね。
ただ、原史料に書き込める人物としては、貞勝やそれに近い人物
(村井専次あたりか?)以外にはまず考えられないのではないのでは
ないでしょうか。
それを採用しなかったというのは疑問に思います。

> ○拝見記を入手した牛一が手を加えた。加えた内容についても、補記の
>  時点では一定の事実を反映していたが以降の牛一の試行錯誤の結果
>  としてV類本等の記述が確定、
ただ、金具の件のように断片的には採用されたような部分もあるので、
まさにそこに牛一の試行錯誤の痕跡を指摘できるかも知れませんね。

>補記の記事は適当で、追加情報で 後になる程精度が増した、
とか、
関係者の記憶も薄れる中での追加情報の精度には疑問があります。

> 片方、或いは双方とも単なる 牛一の想像に過ぎないとか、いろいろな場合が考えられる。
先に指摘した「牛一の記述に対する姿勢と、作成された文章の一般的傾向」
からすれば、牛一のオリジナルと見るのが適当ではないでしょうか。

そもそも『信長(公)記』については誤解されている部分もあって、
「日記」に基づく故、作為も少ないと思われがちですが、有名な
ところでは『兼見卿記』の問題があり、『言継卿記』にすら改竄が
指摘(「言継卿記」の竄入記事について/染谷光廣
−『日本歴史』390号−)されています。


タイトルありがとうございました
記事No: 159 [関連記事]
投稿日: 2003/01/17(Fri) 12:59
投稿者

淳也さん、t.mさん、ご教示ありがとうございました。

> そもそも『信長(公)記』については誤解されている部分もあって、
> 「日記」に基づく故、作為も少ないと思われがちですが、有名な
> ところでは『兼見卿記』の問題があり、『言継卿記』にすら改竄が
> 指摘(「言継卿記」の竄入記事について/染谷光廣
> −『日本歴史』390号−)されています。

他者に対して講釈・書写されたとする「公記」はもちろんとして、
日記にしてもある意味後日の他見を前提にしてますものね。史料に
対するスタンスはなかなか難しい:。しかし痒いところにはなかなか
手が届かないのはもどかしいですけども、まあそこがまた史料読みの
楽しいところでしょうか(笑)。

そうした意味では安土城には関係ありませんが、最近yahooの掲示
板で史料から掘り出されつつある「御ツマキ」にまつわるあの議論、
とても面白いですね、t.mさん。


タイトルRe: ありがとうございました
記事No: 163 [関連記事]
投稿日: 2003/01/18(Sat) 08:24
投稿者T.m

> そうした意味では安土城には関係ありませんが、最近yahooの掲示
> 板で史料から掘り出されつつある「御ツマキ」にまつわるあの議論、
> とても面白いですね、t.mさん。
「御ツマキ」にしろ楠長暗にしろ、知る人ぞ知る有名人の姿(活躍)が
窺えないのも『信長(公)記』の背景として指摘できるのではないでしょうか。


タイトルRe: ありがとうございました
記事No: 164 [関連記事]
投稿日: 2003/01/18(Sat) 11:08
投稿者

> 「御ツマキ」にしろ楠長暗にしろ、知る人ぞ知る有名人の姿(活躍)が
> 窺えないのも『信長(公)記』の背景として指摘できるのではないでしょうか。

牛一の著作過程で単に漏れたという可能性も否定できないとは
思いますが、牛一の認識による政治史の著述上で、「御ツマキ」は
ともかく楠長暗が現れない理由というのも、他に併せ考えるよい
史料があれば、確かに一考の余地があるかも知れませんね。